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山口地方裁判所 昭和29年(行)5号 判決 1956年4月26日

原告 千金主

被告 国 外一名

国代理人 西本寿喜 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、原告訴訟代理人は「別表目録記載の家屋は原告の所有であることを確認する。被告国は原告に対し右家屋につき昭和二十五年七月十一日山口地方法務局防府出張所受附第三五六三号をもつて同被告のためになされた所有権取得登記の抹消登記手続をなすべし、被告荒瀬保人は原告に対し右家屋につき昭和二十六年五月二十八日山口地方法務局防府出張所受附第二二二一号をもつて同被告のためになされた所有権取得登記の抹消登記手続をなすべし、訴訟費用は被告等の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として次の通り述べた。

『訴外在日本朝鮮人連盟(以下朝連という)は昭和二十四年九月八日法務総裁から団体等規正令第四条の指定を受けて解散せしめられたものであるが、当時法務総裁から委任を受けた山口県知事は別紙目録記載の家屋(以下本件家屋という)は朝連防府支部所有の財産であつて解散団体の財産の管理及び処分に関する政令第三条により国庫に帰属したものであるとしてこれを接収し、被告国は昭和二十五年七月十一日山口地方法務局防府出張所受附第三五六三号をもつて右家屋について所有権取得登記を了した上、昭和二十六年四月二十五日これを被告荒瀬保人に代金一万九千五百円で売却し、同被告は同年五月二十八日右法務局出張所受附第二二二一号をもつてその所有権取得登記を了した。しかしながら本件家屋は原告が昭和二十二年三月一日訴外桝野房吉から買受け、昭和二十三年六月十二日その所有権取得の登記を了しているのであつて、原告は昭和二十二年三月二十七日からこれを朝連防府支部に事務所用として賃料月三百円(後に九百円まで増額)で期間の定めなく賃貸していたにすぎないのである。かように右家屋は原告の所有であつて朝連防府支部の所有ではないのに前記のように山口県知事においてこれを接収し、しかも該家屋は接収財産目録にも記載されていないものであるのに法務総裁において何等の調査もなさず一方的にこれを右支部所有の財産であつて国庫に帰属したものであると認定し、被告国はこれを被告荒瀬に売却したものであるから、かゝる接収及び認定従つてまた売却の各処分は当然無効というべく、右処分等によつて本件家屋についての原告の所有権が喪失せしめられるいわれはないから、右家屋は今日尚原告の所有に属するものである。よつて木訴において被告両名に対し本件家屋が原告の所有であることの確認並びに前記被告等の各所有権取得登記の抹消登記手続を求める。』

そして被告等の主張に対し次のように述べた。

『本件家屋の売却が解散団体財産売却理事会を通じてなされたものであること、朝連が法人格を有しないことは認める。解散団体の財産に関する接収、認定及び売却の各性質についての被告等の主張は一応肯認し得るが、その効力についての所論は首肯できない。元来占領期間中の連合国の占領政策は間接統治の方式によつて施行されていたものであるから、日本の国家機関が連合国最高司令官の下部機関であるという根拠はどこにもないのである。総司令部は日本政府に対し解散団体の財産の管理及び処分について種々の指令をなしているけれども、この指令は抽象的規範たるに止まるものであり、又右財産の処分手続に総司令部が介入する権限を有していたとしてもそれは所詮介入に止まるのであつて、各手続の具体的実施は日本政府がその任務として対占領当局のみならず対国民との関係においても自らの責任でこれをしたものであり、殊に或る財産が解散団体に所属するものかどうかを認定することは法務総裁に一任されていたのである。従つて法務総裁の権力行使の淵源が最高司令官の権限に由来するものであるとしても右接収、認定及び売却の適否について国民に対する責任を免れることはできないのである。けだし国家は永続的一体であつてその権力は最高であると共に国民に対しては絶体の責任を負うものであるから、たとえ他国の占領下にある場合でもいづれは国家権力の最高性と絶対責任性とを回復することを前提としているのであつて、占領に藉口して占領下における国家機関の行為の責任を回避するが如きは国家の基本観念に牴触するものといわねばならないからである。それ故占領中解散団体の財産に関し法務総裁の行う処分について我国の裁判所に裁判権がなかつたというのは本来ならば憲法の枠内の行為として裁判権の対象となり得たところの処分に関する争訟について最高司令官の指令により一時裁判権の行使を停止せしめられていたというにすぎないのであつて、占領が終了し我国の裁判所の裁判権が全面的に回復した今日においては前記各処分の効力も当然裁判権の対象となるべきものである。

次に国際条約は原則としてその締結国の国民を直接に拘束する効力を有するものではなく、条約に定められたところを国民に適用するためには別に国内立法を必要とする。現に平和条約第十九条(d)項には「日本国は…承認し」とあるのみで直接国民の義務を規定していないし、日本国憲法第九十八条第二項の規定は国民の権利擁護のためには憲法に違反しないだけでなく条約及び国際法規をも無視してはならない旨を定めたものであつて、国民の権利を制限するための規定ではないから、右平和条約の条項を理由に本件について我国の裁判所に審理権がないということはできない。仮に被告等のいうように解散団体の財産に関する前記認定及び売却の効力は平和条約の発効後も日本の国家機関及び国民においてこれを承認しなければならないものであるとしても、それは最高司令官の指令に基き又は占領中の諸法規に基き適正になされたものについてのみいゝ得ることであつて、右指令や法規に定める要件を欠いたものについてまでいゝ得ることではないから、解散団体に所属しない本件家屋についての認定や売却の効力を承認しなければならないものではない。

解散団体の財産の意義についての被告等の所論は概ね正当といゝ得るであろうが、朝連防府支部は本件家屋について単に賃貸借上の使用収益権を有するに止まり実質上の所有権や根本的な支配権(処分権)を有するものではないから、右所論をもつてしても右家屋が解散団体の財産であるとはいえない。』

第二、被告国指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁及び主張として次の通り述べた。

『原告の請求原因事実中、朝連が原告主張のように解散団体として指定されたこと、当時法務総裁から委任を受けた山口県知事が原告主張のように本件家屋を接収し、法務総裁が右家屋は朝連防府支部所有の財産であつて国庫に帰属したものである旨の認定をしたこと、被告国が原告主張のように本件家屋について所有権取得登記を了し、該家屋をその主張のように被告荒瀬に売却したこと、被告荒瀬が原告主張のようにその所有権取得登記を了したこと、登記簿上原告が本件家屋について昭和二十二年三月一日附売買により訴外桝野房吉から所有権の移転を受けた旨の記載のあることは認めるが、その余の事実はすべて否認する。

一、本件家屋について法務総裁がなした認定及び売却の処分の当否及がこれによつて生じた権利関係については以下述べる理由で裁判所に審理権がないから、原告の本訴請求は棄却さるべきである。

(1)  解散団体の財産の処分に関する手続は、法務総裁において団体等規正令第四条に基く指定をなすと同時に解散団体の所有し又は支配する財産を接収し、次いでこれが解散団体所属の財産であるか否かについて権利関係を調査しその所属財産と認められる場合にはその旨の認定を行い、登記等の公示方法のある物件についてはその手続を経た上、右財産の売却機関である解散団体財産売却理事会を通じてこれを売却することとなつていた。本件家屋についてもこれに従い前記のように法務総裁は朝連を解散団体と指定した後これを接収せしめ、次いでその権利関係を調査した結果朝連防府支部の所有財産と認定し、右理事会を通じてこれを被告荒瀬に売却したものである。しかして右の「接収」、「認定」及び「売却」の性質及び効力は次の通りである。

(イ)「接収」は解散団体の財産の管理及び処分等に関する政令(昭和二十三年政令第二百三十八号)第六条を法令上の根拠とするものであつて、或る財産が解散団体の財産であるか否かの調査判定をなすまでの間その隠匿散逸を防止するための措置として解散団体がその全部又は一部を直接或いは間接に所有し又は支配する財産についてその事実上の支配を国に移転する行為をいうのである。従つて接収は民事訴訟法上の差押えに相当するもので単に物の占有を取得するにすぎず、これによつて所有権の変動を来たすものではない。朝連は法人格を有しない団体であるので本件家屋がその所属の財産であるか否かを早急に判定することが困難であり且つ判定までに隠匿散逸されることが予想されたのでその防止の必要上接収を行つたのである。

(ロ)「認定」はある財産が解散団体に所属するものである旨の法務総裁の判断の表示であつて、これによつて解散団体の有していた財産権が国庫に帰属したことが確定されるのである。元来解散団体所属の財産は解散指定と同時に前記政令第二百三十八号第三条により自動的に国庫に帰属するのではあるが解散指定の段階では国庫に帰属すべき財産の範囲は明瞭でなく、国庫としては解散団体所属の財産である限りその財産権を取得しているという一種の抽象的な権利を有するに止まり、右認定によつて初めて抽象的な法律関係が具体化され解散指定の時に遡及して国が具体的な権利を取得するのである。従つて法務総裁の認定は既存の法律関係を確定するものとして恩給権の裁定、所得額の更正決定と同様いわゆる確認処分に属するものといゝ得るのであるが、その効力において一般の確認処分と異る点を有し、右認定はその性質上処分の成立と同時にいわゆる確定力のみならず判決の既判力と同等の効力即ち絶対的確定力をも有するのである。というのは占領中日本政府及び日本国民は連合国最高司令官が降伏条項実施のため適当であると認めて発し又は発せしめる一切の布告、命令、指示及び要求を遵守すべきものとされ、これらの命令、指示等は超憲法的な効力を有し国民はそれを当然適法有効なものと認めざるを得なかつたのであつて、解散団体の財産の管理及び処分に関しては最高司令官から数次にわたる覚書が発せられ、これによればその指令履行のための機構及び手続は総司令部の承認を得て作られるべきものとされ、手続の各段階において総司令部が介入する旨定められていて、日本政府には一切裁量の余地が与えられていなかつたのであるから、解散団体の財産の管理及び処分に関する限り法務総裁の行為はその権力行使の淵源を超憲法的な最高司令官の権限に直接求めらるべきものであり、その法律上の適否、裁量上の当否については上級機関としての右司令官に対してのみ責任を負うものであるから、法務総裁の行為は憲法の領域外における最高司令官の直接の行政作用という外はなく、これをもつて日本固有の統治権限に基く行政作用とみることはできない。要するに法務総裁の行為は即ち最高司令官の行為というべきであるから、法務総裁の認定行為はそれ自体において認定されたところの権利関係に絶対的確定力を与える効力を有していたものである。このことは確立された判例(最高裁判所昭和二十四年六月十三日言渡判決、同裁判所昭和二十五年七月五日言渡判決)において解散団体の財産に関する法務総裁の処分は一旦それがなされた以上、それは確定した既成の法的事実として有効に存在するものとして承認せざるを得ず、日本の裁判所はその当否を判断する権限を有しないとされていたことからも論証し得るところであり、更に直接的には昭和二十五年一月五日附総司令部財産管理局発法務府宛覚書「解散団体にもと所属した財産の権利に関する訴訟事件についての日本裁判所の裁判権について」の内容並びに昭和二十五年六月二十七日附をもつて総司令部の発令官憲から示された解釈によつても明かである。

従つて認定が一旦行われるとこれはそのまゝ適法有効なものとされ、右認定によつて確認された権利関係はそのまま絶体的に確定せられて、爾後強制通用力をもつことになつたのである。

(ハ)「売却」は民事訴訟法上の競売と性質を同じくするものであるが、その効果を異にする。右理事会の売却にあつては競売の場合と異り買受人は買受物件がもと解散団体所属の財産であると否とに拘らず完全な所有権を取得することを得たのである。何となれば右売却は前記認定と同様最高司令官の権限に発する超憲法的行政作用であり、理事会の売却は即ち最高司令官の売却であつたから、右理事会が総司令部の承認を得た売却公告に従つて売却しその結果を総司令部に報告した後は、最高司令官によつて取消変更されない限り超法律的に実体上の権利の変動があつたと解すべきものだからである。

(2)  しかして右の認定、売却の当否、従つてまたこれによつて生じた効果については平和条約発効後の現在においても裁判所がこれを審理判断することはできない。何となれば、

(イ) 或る行為によつて実体上の効果が生じたか否かはその行為の行われた法律状態の下で判断さるべきであつて、本件家屋については前記法務総裁の認定及び理事会の売却によつて占領時に既に実体上の効果を生じ、被告荒瀬の所有になつたものとして確固不動の権利関係が形成されているのであるから、裁判所は平和条約によつて裁判権が全面的に回復したからといつて占領中における右認定及び売却の処分の効力はもとより当該行為によつて生じた権利関係について判断することを得ないのである。

(ロ) また「日本国との平和条約」第十九条(d)項によれば「日本国は占領期間中に占領当局の指令に基いて若しくはその結果として行われ又はその当時の日本国の法律によつて許可されたすべての作為又は不作為の効力を承認し…」とあり、更に日本国憲法第九十八条第二項には「日本国が締結した条約及び確立された国際法規はこれを誠実に遵守することを必要とする」と規定されている。従つて占領期間中に占領当局の指令に基いてなされた本件家屋についての認定及び売却の処分は右両法条に基き日本国家として、対外的にばかりでなく対内的にも、国内法上で日本の国家諸機関及び国民もまた右の効力を承認しなくてはならないこと勿論であり、右の国家機関の中に裁判所が含まれることも自明の理であるから右確定された処分を現在において審理しその効力を判定することはできないと解すべきである。

二、仮に右の主張が理由ないとしても本件家屋は連盟の解散当時その防府支部の財産であつたから原告の請求は失当である。

即ち、本件家屋は昭和二十二、三年頃右支部委員長であつた訴外徐鶴洙が同支部の用に供するためその構成員からの寄付金をもつて訴外桝野房吉から買受け、爾来これを同支部事務所として使用してきたものであつて、たゞその登記のみ支部員の諒解のもとに当時同支部副委員長兼社会部長であつた原告の所有名義としていたに過ぎないのである。しかして朝連の解散当時山口県知事の調査により右事実が判明したので法務総裁が右家屋は実質上右支部の所有する財産であると認定し、これを被告荒瀬に売却したものであるから右認定及び売却は勿論有効であつて、右処分が無効であるとの原告の主張はあたらない。

尚政令第二百三十八号第三条にいう「解散団体の財産」とは「解散団体に所属する財産」即ち「解散団体が直接間接にその全体又は一部を所有したり支配したりしている資産」をいうのであつて、登記すべき財産についても登記簿上解散団体の所有名義であることを要しない。何となれば若し解散団体の財産のみが国庫帰属の対象になるにすぎないとすれば朝連のように法人格を有しない団体が法律上所有権を有することはあり得ないから国庫に帰属すべき財産も存しないことになるが、軍国主義的反民主主義的団体の完全な解消のためにその拠つて立つ物的基礎の破壊を目的として覚書を発した最高司令官がさような結果になることを意図していたとは到底解し得ないからである。』

第三、被告荒瀬保人訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁及び主張として次の通り述べた。

『原告の請求原因に対する答弁及び主張についてはすべて被告国の述べたところを援用する。要するに被告荒瀬は本件売却処分によつて適法有効に本件家屋の所有権を取得し、現在もその正当な所有権者であるから原告の請求は失当である。』

第四、証拠として、

原告訴訟代理人は甲第一、二号証、第三号証の一、二、三、第四、五号証を提出し、同第三号証の一、二、はいずれも山口県吏員の作成したものであると附言し、証人張根植の証言、原告本人尋問の結果を援用し、乙第一、二、五号証の成立を認め、その余の乙号各証は不知と述べ、

被告国指定代理人は乙第一乃至五号証を提出し、証人中谷行夫の証言を援用し、甲第一、五号証の成立を認め、その余の甲号各証は不知と述べ、

被告荒瀬訴訟代理人は右乙号各証及び中谷証人の証言を援用し、甲第一、五号証の成立を認め、同第四号証の成立を否認し、その余の甲号各証は不知と述べた。

理由

訴外在日本朝鮮人連盟(朝連)が昭和二十四年九月八日法務総裁から団体等規正令第四条の指定を受けて解散した団体であること、その頃法務総裁から委任を受けた山口県知事が本件家屋を接収し、法務総裁が右家屋はもと朝連防府支部所有の財産であつて国庫に帰属したものである旨の認定をしたこと、被告国が昭和二十五年七月十一日山口地方法務局防府出張所受附第三五六三弓をもつて右家屋につき所有権取得登記を了したうえ、昭和二十六年四月二十五日解散団体財産売却理事会を通じてこれを被告荒瀬保人に代金一万九千五百円で売却し、同被告が同年五月二十八日右法務局出張所受附第二二二一号をもつて右家屋について所有権取得登記を了したことは当事者間に争がない。

そこで考えるに、敗戦の結果我国統治の権限は連合国の管理下に置かれ、連合国最高司令官は降伏条項を実施するためには日本国憲法にかゝわりなく法律上全く自由に自ら適当と認める措置をとり、日本政府機関に対する指令を発してこれを遵守実施せしめ得るものとされていたところから、最高司令官はその権限に基き数次の覚書をもつて、日本政府に対し、軍国主義的反民主々義的反連合国的な団体の解散を命じ、解散した団体の財産はすべて日本政府に移管すべきものとし、これらは政府において接収保管をして、総司令部当局の承認を得た売却の方法によつて処分すべきことを指令した。そこで右指令を実現するために昭和二十年勅令第五百四十二号(ボツダム勅令)に基き「政党、協会其ノ他ノ団体ノ結成ノ禁止等ニ関スル件」(昭和二十一年勅令第百一号)及びこれに代る「団体等規正令」(昭和二十四年政令第六十四号)並びに「解散団体の財産の管理及び処分等に関する政令」(昭和二十三年政令第二百三十八号)が制定されたのであるが、右勅令はいわゆるポツダム命令の一として占領政策上最も重要な管理法令とされ、右政令によつて行われる解散団体の指定並びにこれに伴う右団体の財産に対する接収保全売却等の措置は形式上我国政府機関によつて行われるものであるけれども、それは最高司令官に直結する機関として憲法の領域外で行われるものであり、その当否は究極において同司令官によつてのみ決せられるべきものである点において公職追放覚書該当者指定処分と同様の性格を有し、このため右措置に関連する民事事件については、昭和二十三年(一九四八年)二月四日連合国総司令部政治部長から最高裁判所長官に対してなされた指摘の趣旨に従い、我国の裁判所は裁判権を有せず、右措置が一旦なされた以上我国法上は何人もこれを既成の法的事実として有効に存在することを認めざるを得ないとされていたのである(最高裁判所昭和二十五年七月五日言渡判決、同裁判所昭和二十四年六月十三日言渡判決参照)。従つて本件家屋についても法務総裁が最高司令官に直結する機関として前記政令第二百三十八号に則りその必要ありと認めて接収せしめた上、これが解散団体(もと朝連防府支部)の財産であり右政令第三条の規定によつて国庫に帰属したものであると認定してその旨の登記をなし、次いで法務総裁の直接の監督の下にある解散団体財産売却理事会がこれを被告荒瀬に売却したものである以上、右の各措置はいづれも適法有効なものとして承認するの外なく、その結果仮に客観的には右家屋が国庫に帰属し得るものではなかつたとしても、右一連の措置によつて該家屋の所有権が一旦国庫に帰属した上さらに被告荒瀬に移転したという効果は何人も否定することができなかつたといわねばならないのである。

しかして一般に或る行為の当否はその行為のなされた時の法律状態の下で判断さるべきものであることは法律不遡及の原則に照らして明かであるから、平和条約の発効に伴つて我国の主権の独立が回復し我国裁判所の裁判権が全面的に回復した今日においても、既に占領期間中に適法有効なものとして確定していた行為の効力を現在の国法に照らして遡つて審理しその効果を否定することはできないと解すべきである。そうだとすると前記各措置の効力、従つてまた本件家屋の所有権が国庫に帰属した上被告荒瀬に移転したという実体上の効果は今日においても尚存続するものというべく、これを現在の立場において否定することはできないから、前記接収、認定及び売却は無効であつて本件家屋は原告の所有に属するものであるとの原告の主張は固より認容の限りでない。

よつてその余の点について判断するまでもなく原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 河辺義一 藤田哲夫)

目録<省略>

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